奥山 忠政(おくやま・ただまさ)
【略歴】
昭和35 年(1960)神戸大学法学部卒業。総合商社員~ホテル総支配人~大学講師を経て久留米大学大学院・前期博士課程に社会人入学(経
済学修士)
東アジア学会・企画委員
アジア麺文化研究会・事務局長
【主な著書・論文】
文化と文明の視角<共著>(1999 東海大学出版会)、ラーメンの文化経済学(2000 芙蓉書房
出版)、都市と農山漁村の新交流<共著>(2002中国経済出版社)、グリーンツーリズムが拓くアジアの未来(2005 JICA・久留米大学)
Email/ okuyama@sunglow.info

四国B級ご当地グルメの地域活性化力  

四国B級ご当地グルメ連携協議会 常任顧問 奥山 忠政

「B級ご当地グルメ」とは

(1)「四国B級ご当地グルメ連携協議会」(略称:四B連)は、「B級ご当地グルメで四国を元気にしよう」と2010年8月、松山市で発足した非営利団体で、「B級ご当地グルメ」の発掘・連携・発信を使命としています。

(2)「B級ご当地グルメ」という言い方、あらためて考えますと、なんだかヘンなところがあります。
 まず「B級」。言葉そのものは60年代にあったようですが、当時は「質的に」ワンランク下といった意味の普通用語でした。
 80年代半ばごろ、「味はA級、値段はB級」というキャッチコピーが使われるようになって意義が一変しました。「高級店の料理が庶民に手の届く値段で食べられる」といった意味の、「値段」に重点をおいた表現に使われるようになったのです。老舗の天ぷらやウナギ、昼食のコースで数千円のものが、丼にすると千円前後で食べられる。これが「B級」の内容でした。「丼」がポイントです。
 つぎに「ご当地」。言葉自体格別のものではありませんが、愛郷心をくすぐる響きに〝NHK様〟の気配を感じます。
 さいごに「グルメ」。フランス語(gourmet)本来の意味は「食通」です。それがいつしか「食べ物」を指すようになってしまいました。「ミシン」「拉麺」「アルバイト」などと同様、原語の意味を替えてしまうのは日本人の得意技のようです。

(3)以上をふまえて、さる有力なB級ご当地グルメによるまちおこし団体は「地域で長年にわたり日常的に食べられている」ことを条件としています。これに対し、わたしは「地域の特色や夢を託したお手軽値段の珍しい食べ物」としたいと考えています。この定義に四B連の存在意義がかかっていると申しても過言ではありません。
 (a)一つは「創作料理」や「復活料理」も大いにけっこう、という点にあります。長年にわたり地元に根づいているという「グルメ」は四国にそう多くはありません。問題は数の少なさにあります。要するにパワー不足なのです。
  (b) 二つ目は担い手を問わない点です。営業者でもいいと言っているのです。商売であっても地域の食材を使い、雇用を生み、客を呼び込み、利益をあげて税金を納めてもらえれば、立派な地域貢献ではないでしょうか?
 (c)三つ目は「珍しい食べ物」という言い方です。「美味しい」とは申しておりません。
 高知県香南市に「中日(そば)」という麺料理があります。シラスを釜揚げした煮汁に中華麺を入れたもので、中国と日本のコラボレーションだから「中日」と呼んでいます。「ややまずい」のが特徴だそうで、それなりに地元の人たちに愛されており、珍しがって各地から客が来ています。じつはわたしも先日、安芸市の帰りに食べてまいりました。予想以上の味で、「ややうまい」といった印象でした。
 「美味しい」というのは相対的な感覚です。アミノ酸や核酸以外の、メンタルな要素が大きなウエイトを占めています。懐かしさ、思い出、エピソードなどです。尊敬する人や恋人に「美味しい」と言われると美味しく感じるものです。「美味しいと思うから美味しいのだ」という、非論理的なようで真面目な議論もあります。


 

地域おこし

(4)「B級ご当地グルメによる地域おこし」が注目されるようになったのは、2000年に始まった静岡県富士宮市の動きからです。仕掛け人は渡辺英彦氏、着目したのは「やきそば」です。かつて富士宮市に近江絹絲の紡績工場があり、大勢の女工さんたちが昼夜通して働いていました。彼女たちが間食や食事代りに駄菓子屋で食べていたのが「やきそば」です。1993年に工場が閉鎖されたあとも150軒の店に「やきそば」が残されていました。市の人口は約12万人です。
 渡邉氏の非凡なところは、マスコミの動かし方にあります。最初のころ活動主体の名を問われ、「富士宮やきそば学会」と答えました。創価学会の総本山が富士宮市にあったのをもじったものです。マスコミが飛びついたのは申すまでもありません。「三国同麺」「ミッション麺ポッシブル」「愛Bリーグ」「B―1グランプリ」なども渡邉氏の発案です。「新聞の見出しになるようなフレーズを発信するのがコツ」と申しています。

(5)富士宮やきそば学会の活動による地元への経済効果は、地域デザイン研究所によりますと、2010年までの10年間で250億円と推計されています。
 2011年11月に姫路市であった「第6回B―1グランプリ」の場合は、兵庫県立大学・秋吉一郎教授の推計によりますと、約40億円です。来場者は51・5万人でした。姫路市の人口は57万人です。渡邉氏自身、「もう宗教行事ですね」と述べておられます。
 各地でさまざまなB級グルメ催事が行われており、四B連は「四国B級ご当地グルメフェスタinまんのう公園」を主催しています。昨年5月14~15日の第1回には約2万人の来客がありました。11月3~4日開催される第2回には2万5千人の来客を見込んでいます。ほかにもさまざまな催事を主催や協賛しており、経済効果も相当のものがあるはずです。

(6)ご注目いただきたいのは「経済外効果」です。自分たちのグルメを出展してみようと決まると、これが求心力となってコミュニティーに連帯感が高まります。「おみこし効果」です。「地域おこし」は「コミュニティーの活性化」と同義です。
 さらに、出展がきっかけとなって他の出展グループとの交流が生まれるということが実際に起きています。四B連は意識的にこのことに取り組んでいます。「連帯」と「連携」は経済効果以上に重要ではないかと、わたしは考えています。

 

 

「観光」と「交流」

(7)フェスタは発信の場です。われわれはイベント団体ではありませんから、その先の最終目標は「グルメの地に来て食べていただく」ということ、すなはち「観光」です。
 「観光」という言葉は『易経』の「観國之光」からきており、通常「國の光を観(み)る」と読まれています。しかしながら、「観」には、「観兵式」のように、「観せる」の意味もあります。「観る」と「観せる」が交差すると「交流」になります。その地に来て自然景観を眺め、特産品を買い、食に代表される文化を介して人々と「交流する」。これが「日本の観光」だと思います。欧米の「ツーリズム」や中国の「旅游」にこのような意義はありません。
 成熟した先進工業国・日本の進むべき道は「観光立国」しかないと思います。差し当たって外人客ですが、人口6千万人のフランスに8千万人の観光客が来るのに対し、1億2千万人の日本には6百万人しか来ていない事実にご注目ください。

(8)人口減と少子高齢化、デフレ・スパイラル、慢性的財政赤字というトリレンマに解決の目処はありません。沈みかけているタイタニック号の会議室であれこれ議論しているようなありさまです。国民に「がまん」と「自助」の精神が欠如しているのがもっと問題です。ローマ帝国末期にパンとサーカスを求めつづけていた人たちを思い起こします。なんでもかんでも国に依存するのではなく、自分たちで風土に合った生活文化を創りあげ、それを基盤とした交流を重ねていくことによって活力を生み出していくのが肝要ではないでしょうか?
 以上により、私たちがとるべきは「身の丈に合った生き方」を基本にすることと思います。成長率競争にオサラバしましょう。
 「身の丈に合った生き方」というのは、「身近かなところに楽しみや生きがいを見出して仲間とともに育てていく」ことです。「ここに住んでいてよかった」という「幸せ感」の味わえる生き方とも言えます。これが「B級ご当地グルメによる地域おこし」の根底にある考え方です。
 さらに言い換えれば、「仲間と一緒に新しい食文化を創造し育んでいこう」ということになります。

(9)実際の活動で重要なのは「遊び心」です。「遊び」はおもしろさ・たのしさ・うれしさを大切にする「ゆとり」のことです。正義感・使命感・義務感では長続きしません。また「遊び心」にはアイディアを生み、チームワークを保つ効用があります。

 

 

ジビエ食文化の普及

(10)最後に、現在四B連が力を入れている「発掘」は「イノシシグルメの開発」です。
 ご承知のように、ここ数年、イノシシやシカによる農作物の被害が深刻になっており、県や自治体の防除予算は倍々ペースで増えています。イノシシ対策を例にとりますと、捕獲された個体の尻尾を役場に持参すると1万円支払うというものです。本体の始末は任せっ切りですから、たいていは穴を掘って埋められてしまいます。四国にはイノシシ肉を食べるという文化がほとんどなく、食べた人には「ニオイがする」と、評判は芳しくありません。
 そもそもイノシシ肉は美味しいのです。美味しさに加えて、畜肉にない栄養素をもっています。有史以来明治まで、貴重な動物タンパク源として重宝されていたのはもっともなことです。それがこんにち、食肉として利用するという意識のないまま扱うためニオイのする精肉が流通することになってしまいました。
 愛媛県の西予市に本格的処理施設ができたのをキッカケに活動を始めました。モデルにしたのが兵庫県篠山市です。丹波篠山はむかしから「ぼたん鍋」で知られており、シーズンには20〜30万人の観光客が訪れているからです。
 差し当たっての啓蒙活動(ジビエ食文化の普及)は成果をあげつつあり、試食した方々に好評をいただいております。秋からのシーズンに話題を呼ぶことと思います。

 以上、「B級ご当地グルメ」には、地域の連帯をはぐくみ、観光を通じて経済を活性化させ、成熟社会に新たな価値観をもたらすパワーのあることを申し上げました。

四国B級ご当地グルメ連携協議会(四B連)
一般社団法人 四B連企画

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