絶景の場所で味わう徳島一の鮎の味
四国山地を二分する吉野川
日本を代表する大河は、坂東太郎、筑紫次郎、四国三郎と、人の名前がつくが、坂東太郎は利根川の、筑紫次郎は筑後川の、四国三郎は全長200キロにも及ぶ四国第一の大河・吉野川の別称である。
今回、訪れた『鮎戸瀬荘』は、徳島県三好市にある。高速道路徳島自動車道の井川池田ICで降り、国道32号線を大豊町方面に走ると、大歩危小歩危の手前に看板が見える。
鮎戸瀬で捕れた鮎
『鮎戸瀬荘』の位置する「鮎戸瀬」は、「あどのせ」ともいい、吉野川を遡上する鮎にとって吉野川随一の難所である。鮎は、この瀬を一気に上れず、途中で一休みする。「鮎を止める瀬」ということでその名がついた。
店を切り盛りする中村和子さんと坂口えつこさんにお話を伺うと、「鮎戸瀬」で獲れる鮎は、急な流れを越えるために身体の中のものをすべて吐き出し、臭みがまったくなくなるそうだ。
ベランダから「鮎戸瀬」を見ると、竿を垂らした漁師が鮎を狙っていた。この店は、漁師が一匹ずつ釣り上げた天然鮎だけを使う。30センチ以上の大きな鮎もたまにあるという。
鮎は、季節によって味が変わる。六月から八月にかけての鮎は、身が柔らかく、何となく脂が乗っている。九月からの鮎は、卵や白子を抱いている。「鮎戸瀬」にある店だからこそ、天然鮎のおいしさを知りつくした料理を味わうことができるのである。
三好の名物との合体
『鮎戸瀬荘』の「鮎雑炊」は、焼いた鮎をぜいたくに使い、ナス、ホドイモ、ニンジン、タマネギ、ニラなどの野菜にそば米をあわせ、味噌で煮込んだ料理だ。そば米は、そばの実から皮を取り除いたもので、大歩危・祖谷地方のみで使われる。
野菜の甘味に鮎の旨味が加わり、味噌の香ばしさが食欲をそそる。そば米は粘り気がなく、米の雑炊よりもあっさりと仕上がっている。素朴だが、美味しさが心に染み渡る味だ。地元でなじみの食材を使った「鮎雑炊」からは、地元への深い愛情が感じられる。量の多さから、食べられるかなと思っていた鍋が、いつの間にか空になっていた。 |