見かけに騙されては
いけない淡白な昧
ウツボは岩場に住むグロテスクな魚だ。虎のような模様の皮膚にはウロコはなく、鋭い歯を持ち、岩場に引き込まれると指を取られることもある。このどう猛なウツボを高知では食用にする。黒潮の流れている和歌山、千葉、静岡などの地域でも、ウツボは食べられているが、ウツボは黒潮の幸でもあるのだ。
ウツボ料理の中でポピュラーなのは「タタキ」。ウツボ特有のヌメリと骨を取り、両面をじっくり焼き上げる。冷ましたら、小骨を抜いて薄く削ぎ切りにする。ネギやニンニクの葉を薬味として使い、土佐酢や「ぬた」と呼ばれる酢味噌で食べる。
ウツボの身はゼラチンが豊富で鶏肉のような味がする。コラーゲンをたっぷり含むから、美容にもいい。地元では滋養食として、病人や出産後の婦人に食べさせていたという。
その味わいはきわめて淡白で、上品ささえ漂う。見かけに騙されてはいけない。ウツボは、そのグロテスクな容貌で、人を寄せつけないようにしているのかもしれない。まるで理論武装して他人を威嚇するが、懐に飛び込むと心やさしくて味わい深い高知県人のようだ。 |