原料を選ぶ目と伝統の技
高知県の最東端に位置する東洋町には、繭のような美味しい薄皮饅頭「野根まんじゅう」が誕生している。一口大につくられた、しっとりとした柔らかさの饅頭は、口に入れると薄皮が次第に溶けていく。上品でたっぷりの餡は、幸せな気分に導いてくれる。
明治維新ののちに創業したという「浜口福月堂」さん。かつて荒波が岸辺に押し寄せる野根の道は旅人泣かせの難所だった。その道を器用に飛びまわり、お菓子を売り歩いたのが「浜口福月堂」2代目の安太郎さんである。彼のつくるお菓子は、旨いと評判になり、次代へ秘伝書を残した。3代目の赳さんは、この書をもとにお菓子づくりに励んだという。
天皇陛下献上の栄誉
昭和25(1950)年のこと、天皇陛下が土佐路を訪れ、室戸岬にある山田邸で休息をとられた。その際に供されたのが「浜口福月堂」の「野根まんじゅう」だった。以来、皇族の方々が高知御巡遊の折には、お茶受け菓子としてご愛顧を賜っている。
現在は、桂浜花海道に出店。わざわざ東洋町に出向かなくても、「野根まんじゅう」を愉しむことができる。
平成13(2001)年に高知市で開催された表千家の全国大会にも、土産菓子でありながら、お茶菓子に選ばれたことで、その味の高い評価が窺い知れる。
5代目の濱口伸二さんは「当たり前のことを丁寧に続けることが、老舗の運命なのかもしれません。先代からは、どんなに苦労しても、良質の材料を使えといわれています」と語る。
「野根まんじゅう」を頬張ると、明治、大正、昭和、平成と時代を超えてお客様に親しまれてきた、「浜口福月堂」さんのお菓子づくりの秘密が垣間見えた気がする。 |