お殿様の雅号をつけた餅
寛永元年(1624)創業の「村田文福老舗」は、大洲藩から御用菓子司の栄誉を頂いていた老舗。ここの名物菓子は、大洲の殿様にちなんだ名菓「月窓餅」だ。「月窓」は、大洲藩2代藩主・泰興の隠居後の雅号で、槍の名人という武人と、禅僧・盤珪との親交からも伺われる文人の顔を持つ名君泰興の縁に結ばれている。
「月窓餅」は、蜂蜜と砂糖を加えた水溶きのわらび餅でこし餡を包み、青大豆のきな粉をまぶす。ぷるんと柔らかいわらび餅と上品な甘さのこし餡が出逢い、香り高い青大豆きな粉が加わると、さらに美味しさのハーモニーが際立つ。
上品な味わいは、まさに月窓公が好んだに違いないと思わせる。400年という時代を耐え抜いた、繊細で洗練された伝統の味が「月窓餅」には潜んでいる。
家伝は「店を大きくするな」
14代目にあたる店主の村田耕一さんは、「店を大きくするな」ということが家伝かな」と笑った。機械を使うと確かに能率は上がるが、代々伝わってきたものが失われてしまう。できる範囲内で頑張ればいいと語る。
「和菓子屋は、小さかったら食べていける。自分の目の届く範囲でお菓子を管理せんと、満足しきらんのよ。売れたら、それでしまいにせんと、本当にいいものはつくれない」と耕一さん。
「月窓餅」には、老舗のものづくりの精神の真剣さも詰められている。美味しさを味わい、愉しむのは、作り手の思いを感じることに通じるのだ。
「村田文福老舗」は、息子の真嗣さんが家業を手伝う。将来の15代店主にも、お菓子づくりの匠の技と老舗を守る伝統の心が引き継がれていくことだろう。
「盤珪餅」は、9月3日に如法寺で行われる盤珪法要のための餅。完全予約制なので、知る人ぞ知る存在となっている。取材機会があるならば、「村田文福老舗」に再訪して、「月窓餅」と「盤珪餅」を食べたいと願っている。
後日、「盤珪餅」をいただいた。餡を練り込んだ上品な味の餅菓子だ。この餅を食べるには、予約しないと食べられないというのが、つくづく残念だ。 |