恐ろしい魚の、人を食った話
愛媛県では、鮫を食べる。「マブカ」「ホシブカ」と呼ばれる小型の鮫を、南予では「フカ」と呼び、中予では「テッポウ」という。「サメ」は、目が細いから「狭目」となり、「フカ」は深い海にいることで「深」になるらしい。
「フカ」は、そのイメージに似ず、柔らかい口当たりと淡白な味わいが身上で、「ミガラシ」という辛子を効かせた酢味噌をつけて食べる。「ミガラシ」は、ぬるま湯で練った粉辛子に麦味噌と白味噌を混ぜ、酢、砂糖、ミリンで味をつけたもの。
鮫を熱湯にくぐらせ、鮫肌をタワシでこすり落とす。頭や内臓、ヒレを取り去り、身をそぎ切りにしたら塩を振って約十分ほど置き、流水で充分にさらす。ぐらぐらと沸いた鍋に入れ、茹で上がったら氷水で身を締める。それを切り分けると「湯ざらし」ができ上がる。
魚の種類が豊富な愛媛県で「フカ」が食べられるのは、新鮮なものが手に入り、臭みを取るための手法が確立されていたことによる。淡白で上品な味、爽やかな食感は、あのいかつい鮫のものとは信じがたく、箸を何度も出してしまう。 |